ユキヒロと祐介

無言でうなずきながら愛想悪く伸ばした自分の右手を見て、もう割り勘のためにそれを貰う必要がないということに気がついた。
「レシートはご利用ですか?」
むさ苦しい髪のコンビニ店員が差し出した紙切れを拒否する間もなく、自然に財布に吸い込まれていく一連の様子が自分の意思とは無関係のようで違和感を覚える。

ひんやりとしたプレーンのヨーグルトはいつもより物足りない味がした。無くなりかけた瓶から搔き出したブルーベリージャムとのグラデーションがやけに奇麗で、しっかり付いたその味が喉を通るとき、どこか安堵しているのが自分でも分かった

空になった容器を濯いで捨てた。かつてガスコンロが置いてあったその場所に、食器の類いが肩身を狭そうにして重なっている。コンビニでもらったプラスチックのスプーンは、シンクに置かれた職人のこだわりが垣間見える金属スプーンにそっと寄り添うよう、捨てずに並べた。アンバランスなその二対のスプーンに、明らかな即席感が漂った。

夜の東京の空を見上げた。ほとんど星なんか見えないけれど、目を凝らすといつかの極寒の北国で雪に寝転びながら見た、眩いばかりの満点の星空がだんだん浮かび上がってくるような感じがした。どこかにあるはずの北極星を探したが、そもそもどこに見える星なのかもよく知らない自分にがっかりした。急に向かうべき方角を見失ったようで不安が込み上げてくる。しかしその不安の中に、これからどこへでも向かえるという心の広がりも確かに感じた。

自分のアパートの住所の下に刻まれた、彼女の名前に宛てたクレジットカードの明細書を見て、当たり前のようにそこにいた存在の温もりを思い出す。捨てずに取っていた紙束と合わせて、丁寧に破ってゴミ箱に放った。

「レシートはご利用ですか?」そう言い切られる前に前のめりで断った。
なんだか、むさ苦しい店員が今日はちょっぴりさわやかに見えた気がした。

気にしてないフリをして、目を逸らしていた自分の感情に正直に向き合ってみる。そんな勇気をくれる作品でした。

千代窪 将大

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