ヤヨイと祐介

「私の人生の足かせになると、ようやく気付いたからかな。」バンドマンとの別れの時に感じたこと。
灰色なんてものじゃない、カリカリに固まった乳白色がこびり付いた口から、ぽつぽつと落ちていたものが一気に溢れ出した、と表現するよりも、乾き切り動きを止めた、と言う方があっているのかもしれない。ぎゅっと押し潰された心が、元の状態より一回り大きくなった感覚。彼のいない未来は明るかった。

ひたちなかの抜けるような青と緑に囲まれ、これも非日常、と言わんばかりにいい気分になっていた。「いつかあのステージに立てる日が来る。それ見たら、絶対泣いちゃうな。」なんの核心もない中、一途に想い続けるだけでどうにかなると思っていた。誰もが知っている名曲を聞きながら、行ったこともない一番小さなステージにでもいいからまずは立てる日を妄想していた。そう、勝手に。
「今度ライブがあるから来てほしい」、なんて紹介されるのかな、打ち上げなんかに参加しちゃうのかな、なんて妄想していた。一番前?後ろ?正解が分からない居心地の悪いその空間さえ、彼とのレベルアップのアイテムをまた1つ手に入れた気分だった。まだ世に出回っていない音源を聴いたり、代わりに歌詞を英訳したり。関わることでの安心感。自分のやりたいことさえ答えられない私、目を輝かせて語れる夢がある彼、それ自体がかっこよかった。そう思っていた。

いつからだろう、恐らく三年か四年目くらいからかもしれない。そんな妄想を巡らせること自体が罪のように感じられ、純粋に前を見ることができなくなっていた。「職種・給与・条件」「未経験者大歓迎」の文字を見ることが増えていった。もっと世の中にはカッコいい人が山ほどいた。
私の青春を奪いやがって。そんなことを思ったことは一度もない。自分で選んだことだから。ありがとうの一言に尽きる。今の自分の選択を正解に。ひたちなかで朝から食べたカレー、今なら美味しくいただけそうだ。

豊田 弥生

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