タイチと祐介

「『祐介』を読むと自分の昔話をしたくなる。たぶん,あなたも」

大学受験の浪人時代、リョウ君と知り合った。リョウ君は歯医者一家に生まれて、自身も歯医者を目指していた。

朝八時過ぎくらいに予備校の自習室に行くとリョウ君が近づいてくる。
「おい、ホンダ。コーヒーブレイク行こうぜ」
「えっ、今来たばかりじゃん」
「チッ。チッ。チッ。まずコーヒー飲んで目を覚ましてからの方が効率良いって」
リョウ君に付き合って喫茶店に行く。1時間くらい新作映画の見所を力説された。

昼の授業を終えると、リョウ君が来る。
「おい、ホンダ。コーヒーブレイクだ」
「えっ、朝行ったじゃん」
「ホンダ、分かってないな。昼の眠い時間に勉強をしても効率が悪い。休憩をすることで、夕方からの勉強に備えるんだよ!」
リョウ君に付き合って喫茶店に行く。1時間くらい村上春樹について力説された。

夜、帰宅するために予備校を出るとリョウ君が追いかけてくる。

「おい、ホンダ。お前の家にエロ本借りに行くわ」
「えっ、この前貸したじゃん。返ってきてないし、それ」
「ホンダさん、そこはお願いしますよー。受験生はストレスが溜まるんだよ。ね?」
リョウ君は目当ての本を入手するなり、そそくさと帰って行った。
浪人中はそんなことが度々あった。

リョウ君はその年、どこにも受からなかった。二浪目をすると言っていた。言い訳ばかりして勉強をしないリョウ君を僕はダメなヤツと小バカにしていたと思う。それもあって、その後は疎遠になり、リョウ君がどうなったのかは分からない。

あれから約10年経った。リョウ君は勉強をサボりまくっていたけど,すごく魅力ある人だったなと思うようになった。歳をとった。

そんな昔話を思い出した。

本多 太一

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