カナコと祐介

「瞳」

今日も名もなき1日がおわった。
無限パズルみたいな東京の街に飲み込まれた7畳ワンルーム。
部屋にはロックバンドのCDと雑誌が詰め込まれている。
ここが私の居場所だ。

青森の小さな田舎町で生まれ育った。
一年の大半は鉛色の空が広がり重たい空気に包まれている。
きっと、なくなったって誰も気に留めなそうな小さな町。

「うじ虫。」
うじ虫。私のあだ名だ。
教室の隅で何も発さずにうじうじと座っていて、
目がうじ虫みたいに小さいせいで、いつの間にかそう呼ばれていた。
無価値。劣等感。いてもいなくても同じ。
そんな言葉が私にはぴったりだ。

でも音楽を聴いている時だけは、そんな自分を忘れられた。
窓から見える何もない絶望的な景色の先を信じられる気がした。

東京に身一つで飛び込んだ。
顔にメスを入れ、真珠のように、丸く大きな目を手に入れた。

その日から私は自分に"瞳"と名付けた。

誰かに必要とされたくて、風俗で働き始めた。ここには本能で自分を求めてくれる人がいる。

ある日、ある青年を接客した。
長い前髪からチラリと見える彼の目は、故郷の空と同じ濁った鉛色をしていて、懐かしさと、親近感を覚えた。

彼はバンドをやっていた。
「売れないんだよね」と小さな声で呟く。
音楽に期待し裏切られても歌い続ける彼は、どこか自分と重なった。

数年後、ふと入った小さなCD屋で彼を見つけた。
コーナーの片隅で、でも世に殴りかかる鋭利な存在感を放っていた。

嬉しさと懐かしさで、君の名前を検索する。
携帯で撮られたような荒い映像が出てきて、コインランドリーの前で一人ギター片手に歌う君の姿がそこにあった。
ノイズの入った映像が君らしかった。
コインランドリーの騒音なんか気にせず、自分の歌を叫ぶ君を見たらなぜか少し泣けた。

ボーイズENDガールズの”END”は終わりで始まりの意味なのかな。
君に届くといいな。
私の頼りないファンファーレ。

本山 香菜子

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