ヒトミと祐介

「ガムいる?ついいつも同じやつ買っちゃうんだよね。」
もぐもぐと口を動かしながら、彼は左手を差し出した。控えめに上げた広角から少し飛び出した八重歯がかわいい。
カーディガンのポケットから抜き出した右手は、自分が思っていたよりも汗ばんでいた。
渡されたガムの銀紙をお行儀よく開く。
口の中に放り込んだガムの糖衣をパリッと小気味よく噛み締めると広がる、少し安っぽいグレープの味。
周りから「そろそろ切ったら?」と言われても、頑なに中途半端な長さを維持している野暮ったい前髪は、あのロックバンドのボーカルを真似ているようだ。私も大好きなロックバンドだ。
彼に教えてもらった、深夜にやってる音楽番組のエンディングに使われた新曲のカップリング。決して派手ではないけど、聴いていてドキッとするような過激な歌詞。だけど憧れるような恋愛を歌っているその曲を、夜窓辺で聴いている時だけは自分も知らない自分に出会えるような気がしていた。

背伸びして三度折り返して履くようになったスカートは、思い返してみると自分でも恥ずかしいほどの短さだったけど、めくれるスカートの裾を気にする暇なく彼のことが好きだった。
そういえば「いつかこんな田舎から早く飛び出したい」って二人で言ってたっけ。

―作品の中に出てくる「瞳ちゃん」。
同じ名前で田舎生まれ、シンパシーを感じました。

中野 瞳

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