フウタと祐介

「アンサー」

冷たい雨が、無神経に私の肩を叩いてくる。

外回りの途中、公園のベンチでうなだれていると、足元にサッカーボールが転がってきた。おれも夢中でボールを蹴っていた時代があったな、と今の自分に目をつむるように、物思いに耽る。今、会社では四角い顔をした上司に罵られ、すみません、が口癖になっている。「すみま」と検索で打てば、予測変換で「すみません 川口」と出てくるのではないかと思う。
少年が向かってくるため、ボールを手渡す。
「おじさん、下ばっかり向いていると、頭皮が目立つよ」
唐突な少年の言葉のパスに、私は戸惑った。あまりに自然に横に座ってくるものだから、思わず「もうダメかもしれません」と神父に告解するかのように、話を始めてしまう。二人でバス停に向かい、気付けば今、後ろの席に並んで座っている。

「おじさん、僕、思うんだけどさ、人生って、おとぎ話なんじゃないかな。」
私の、悩める人生へのアンサーとしては、相性が悪い言葉だ。しかし、私も幼い頃はそう思っていたため、胸の奥を少しだけ締め付けられる気がした。

少年は、一週間前に、父親を亡くした。らしい。

自分の生きてきた時間を、おとぎ話のように語る病床の父親に辟易していた少年だったが、いざ葬式になると、本当におとぎ話の登場人物が、参列していたという。
そんな映画あったよな、と思いながらも、自分も同じような体験をしていたことを思い出す。

おれの親父も、おとぎ話が大好きだった。
四〇年以上も前の話であまり覚えていないが、隣にいる少年が、当時の自分と重なる。

「おじさん、主人公なんだからさ。」
窓についた水滴の中に、本当の世界を覗くように言う。「おじさんの物語はまだ、起承転結の、転にも行ってないかもよ。起承転転転結、かもしれないけどね。」
そう言うと少年は「じゃあここで降りるから」とバスを降りた。
私も慌てて後を追うが、そこに、少年の姿はない。

雨が止み、雲の切れ間から、光の柱が落ちてきた。

上村 風太

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