アツシと祐介

「はざま」

本書の文字を追いかけながら、一頁ずつめくる度に、どこかで類似した体験をしたような気がした。それは湊かなえ著の『告白』(双葉文庫)だった。『告白』は章ごとの主役が淡々と物語を語るという記述方式が特徴的であり、書籍は小説というより「台本」に近く、閲読中には舞台を鑑賞しているような感覚に誘われる。舞台のような感覚、それは文字を読み解いているにも関わらず、オーケストラの演奏に包まれている感覚。そして、『祐介』も文字と文字の間にメロディーが奏でられている。物語を盛り上げ、時にはどことなく親近感を与えるメロディーが、『祐介』の世界観と個性。そこにあるのは文字だけなはずなのに。
本書はタイトルから察しの通り、祐介という「人物」の物語である。だが、語っているのは本書中に登場する祐介本人ではなく、もう片方の祐介である。
俺がしゃべっている。舞台上で、客を睨みつけるようにして。
自分の話なはずなのに、どことなく他人事にしがちな本書の文調が、祐介の人生を冷静に、客観的に、深く深く掘っていく。本書は小説であり自叙伝としての要素も含まれるが、読み手がつくことによって初めてメロディーがつき、そこで初めて「自叙歌」に進化するような小説であった。

福知 厚志

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