アサコと祐介

朝が来る前の深夜、ほとんど車のいないオレンジ色した首都高をかっとばす運ちゃん。

目線がちょうどビルの3、4階の高さなので、マンションの窓の明かりの中にいる人が確認できてしまう。今日と明日の間で無防備にしている人たち。いいなあ、ビール飲んでる。ああ、ベランダで煙草きもちよさそう。えっ、これから洗濯もの干すの?

終電ひとつ前の24時過ぎ、家に帰る前に駅直結のスーパーに寄る。自分も含めてくたくたの人ばっかり。毎日思うのだけど、自分の買い物かごを見られるのがあまり好きじゃない。 一日の終わりに、ビール2缶とそれに合うつまみと、たまに入浴剤。見知らぬイケメンが見たら一瞬で「私」が悟られてしまう気がする。だから一応、年配の人のレジに並ぶ。目の前のOL風の女のひと、焼き肉弁当にお惣菜のカツコロッケとビッグプリンとカロリミッ ト。なんか嫌なことでもあったのかなあ。左隣のレジに並ぶサラリーマン風の男のひと、ポテトチップス一袋と氷結ロング缶。飲んできた後か、奥さんからもらってるお小遣いが すごい少ないとか?他人の買い物かごから勝手に妄想がすすむ。

1年半前の木曜日の20時過ぎ、いつものように怖くて厳しくて仕事ができる上司にくっついて新橋を歩いてた。毎日しょうもないことで怒られすぎて、自分のことも上司のことも嫌いだった。ふと、上司の右ポケットから紙切れが落ちる。すぐに落ちましたよ、とは言わずになんとなく内容を確認する。レシートだった。黒毛和牛ステーキ肉120g、 たまねぎ、にんじん、いかの塩辛、十勝モッツァレラチーズ、プレミアムモルツ500ml。

マンションの窓の中の人も、他人の買い物かごも、上司のレシートも、急に素っ裸にな って見つめられているような気まずさと滑稽さがある。だけど、なんとなく、その人のお母さんになったかのような気分で見つめかえしてしまうのだ。

これからも私は自分の買い物かごを恥ずかしがりながら、他人の人生のその一瞬を愛おしく思うのだろう。

瀧 亜沙子

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